はじめに
プログラムの解析やコードの自動変換を行う際、C 言語のコードを理解しやすい形に変換することが求められる場面があります。そんなときに便利なのが pycparser です。
pycparser は、Python で書かれた C 言語のパーサー(構文解析ツール) であり、C のコードを 抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree) に変換できます。これを利用することで、C コードの構造を解析したり、コードの自動変換や静的解析を行ったりできます。

PythonでC言語のコードを解析してみたいと思いませんか?このガイドでは、Pythonライブラリのpycparserを使って、Cコードを抽象構文木(AST)に変換し、その構造を理解する方法を初心者向けに解説しています。Cコードの解析や静的解析に興味がある方は、ぜひチェックしてみてください!
pycparser の活用例
pycparser を使うと、次のようなことが可能になります。
- C のコードを解析し、関数や変数の一覧を取得する
- プログラムの構造を可視化し、コードの品質チェックを行う
- AST を操作してコードを変換する(例:C コードを Python に変換する)
本記事では、pycparser の 基本的な使い方 を解説し、簡単な C コードの解析を試してみます。Python を使って C コードを解析してみたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください!
pycparser のインストール
pycparser は Python で利用できるライブラリなので、pip を使って簡単にインストールできます。
環境の確認
まず、Python がインストールされていることを確認しましょう。
以下のコマンドをターミナルやコマンドプロンプトで実行してください。
python --versionまたは
python3 --versionもし Python がインストールされていなければ、公式サイト からインストールしてください。
pycparser のインストール方法
Python が準備できたら、以下のコマンドで pycparser をインストールできます。
pip install pycparserすでに pycparser がインストールされているか確認したい場合は、次のコマンドを実行してください。
pip show pycparserこのコマンドを実行すると、インストールされている場合はバージョン情報などが表示されます。
仮想環境でのインストール(推奨)
開発環境を汚さないために、仮想環境を作成して pycparser をインストールすることをおすすめします。
以下の手順で仮想環境を作成できます。
# 仮想環境の作成(venv という名前の環境を作成)
python -m venv venv
# 仮想環境を有効化(Windows の場合)
venv\Scripts\activate
# 仮想環境を有効化(Mac / Linux の場合)
source venv/bin/activate
# 仮想環境内に `pycparser` をインストール
pip install pycparser仮想環境を使用すると、システム全体に影響を与えずにライブラリを管理できるので便利です。
インストール後の確認
正しくインストールされたかを確認するため、Python を起動して pycparser をインポートしてみましょう。
import pycparser
print("pycparser is installed successfully!")エラーが出なければ、pycparser のインストールは成功です。
pycparser の基本的な使い方

pycparser をインストールしたら、実際に使ってみましょう。
ここでは、簡単な C コードを解析し、抽象構文木(AST)を表示する 方法を解説します。
基本的なコードの解析
まず、以下の C 言語のコードを用意します。
int main() {
int a = 10;
int b = 20;
return a + b;
}このコードを pycparser で解析し、AST を表示してみましょう。
Python で pycparser を使う
以下の Python コードを実行すると、C コードの AST を表示できます。
from pycparser import CParser
# 解析対象の C コード
c_code = """
int main() {
int a = 10;
int b = 20;
return a + b;
}
"""
# C コードを解析(パース)して AST を生成
parser = CParser()
ast = parser.parse(c_code)
# AST を表示
ast.show()AST の出力結果
上記のコードを実行すると、以下のような AST(抽象構文木)が表示されます。
FileAST:
FuncDef:
Decl: main, [], [], []
FuncDecl:
TypeDecl: main, []
IdentifierType: ['int']
Compound:
Decl: a, [], [], []
TypeDecl: a, []
IdentifierType: ['int']
Constant: int, 10
Decl: b, [], [], []
TypeDecl: b, []
IdentifierType: ['int']
Constant: int, 20
Return:
BinaryOp: +
ID: a
ID: b このように、C コードがツリー構造のデータとして解析されていることが分かります。
AST の要素を読み解く
上記の出力を見ると、プログラムがツリー構造で表現されていることが分かります。
例えば、以下のような関係になっています。
FuncDef(関数定義)の中にDecl(宣言)があり、その中にTypeDecl(型の情報)があるCompound(複合文)の中に変数の宣言DeclやReturn(return 文)があるReturnの中にBinaryOp: +があり、a + bの演算が行われている
このように、pycparser を使うと C コードの構造を詳細に解析 できます。
pycparser を活用する例
pycparser は、C のコードを解析して プログラムの構造を取得 できる強力なツールです。
ここでは、具体的な活用方法をいくつか紹介します。
関数の一覧を取得する
C コードに含まれる関数を取得するには、AST を解析して FuncDef ノードを探せばよいです。
以下の Python コードでは、C コード内の関数名を抽出しています。
関数をリストアップする Python スクリプト
from pycparser import CParser, c_ast
# 解析対象の C コード
c_code = """
int add(int x, int y) {
return x + y;
}
void print_message() {
printf("Hello, World!");
}
"""
# AST を解析して関数を抽出するクラス
class FuncDefVisitor(c_ast.NodeVisitor):
def visit_FuncDef(self, node):
print(f"関数名: {node.decl.name}")
# AST を生成
parser = CParser()
ast = parser.parse(c_code)
# 関数名を取得
visitor = FuncDefVisitor()
visitor.visit(ast)出力結果
関数名: add
関数名: print_messageこのように、visit_FuncDef を定義することで、AST 内の関数定義 (FuncDef) を探し、関数名を取得できます。
変数の一覧を取得する
C コード内の変数を取得する場合は、Decl ノードを探します。
以下の Python コードは、C プログラムに含まれる変数を抽出する例です。
変数をリストアップする Python スクリプト
from pycparser import CParser, c_ast
c_code = """
int main() {
int a = 10;
float b = 5.5;
char c = 'x';
return 0;
}
"""
# AST を解析して変数を抽出するクラス
class VarDeclVisitor(c_ast.NodeVisitor):
def visit_Decl(self, node):
if isinstance(node.type, c_ast.TypeDecl):
print(f"変数名: {node.name}, 型: {node.type.type.names}")
# AST を生成
parser = CParser()
ast = parser.parse(c_code)
# 変数名を取得
visitor = VarDeclVisitor()
visitor.visit(ast)出力結果
変数名: a, 型: ['int']
変数名: b, 型: ['float']
変数名: c, 型: ['char']このように、変数名とその型を取得することができます。
コードの静的解析に活用する
pycparser を使うことで、コードの品質をチェックする 静的解析ツール を作成することも可能です。
例えば、次のような解析ができます。
- 未使用の変数を検出
- 特定の関数の使用を制限(例:
gets()のような脆弱な関数の使用を禁止) - コーディング規約のチェック(関数名や変数名の命名規則をチェック)
特定の関数の使用を検出するスクリプト
from pycparser import CParser, c_ast
c_code = """
void test() {
gets(buffer);
printf("Hello, World!");
}
"""
# 特定の関数呼び出しを検出するクラス
class FuncCallVisitor(c_ast.NodeVisitor):
def visit_FuncCall(self, node):
if node.name.name == "gets":
print(f"警告: {node.name.name} 関数が使用されています!(脆弱性の可能性)")
# AST を生成
parser = CParser()
ast = parser.parse(c_code)
# 特定の関数をチェック
visitor = FuncCallVisitor()
visitor.visit(ast)出力結果
警告: gets 関数が使用されています!(脆弱性の可能性)このように、危険な関数の使用を検出し、警告を出すツールを作ることができます。
pycparser を活用すると、C コードの構造を解析し、関数や変数の一覧を取得したり、静的解析を行ったりできます。
特に、コードの品質チェック や セキュリティ診断 に役立つため、C 言語を扱うプロジェクトでは大いに活用できるでしょう。
pycparser を使う際の注意点

pycparser は C 言語のコードを解析するのに便利なツールですが、使用する際にはいくつか注意点があります。
ここでは、pycparser の制約や、正しく動作させるためのポイントを解説します。
プリプロセッサの処理が必要
C 言語のソースコードは、通常 プリプロセッサ(Preprocessor) によって #include や #define などの命令が展開されます。
しかし、pycparser はプリプロセッサの機能を持っていません。
そのため、#include <stdio.h> などの標準ライブラリをそのまま解析しようとするとエラーになります。
エラーの例
以下の C コードを pycparser に渡すと、エラーが発生します。
#include <stdio.h>
int main() {
printf("Hello, World!");
return 0;
}解決方法: cpp コマンドでプリプロセスを行う
pycparser を使用する前に、C プリプロセッサ(cpp)を使ってヘッダーを展開 すれば、この問題を回避できます。
以下のように、Python から cpp を呼び出してプリプロセスを行います。
import subprocess
from pycparser import CParser
# C コードをプリプロセス(`cpp` を実行)
def preprocess_code(code):
process = subprocess.Popen(
['cpp', '-E'], stdin=subprocess.PIPE, stdout=subprocess.PIPE, stderr=subprocess.PIPE, text=True
)
stdout, _ = process.communicate(code)
return stdout
c_code = """
#include <stdio.h>
int main() {
printf("Hello, World!");
return 0;
}
"""
# プリプロセスを実行
preprocessed_code = preprocess_code(c_code)
# `pycparser` で解析
parser = CParser()
ast = parser.parse(preprocessed_code)
ast.show()これにより、#include <stdio.h> などの部分が展開され、pycparser で解析可能なコードになります。
対応している C のバージョン
pycparser は C99 準拠の構文を解析するように設計されています。
そのため、C11 以降の構文 や GCC 拡張構文 などには完全に対応していません。
対応していない構文の例
_Alignas(16) int x; // C11 の _Alignas はサポートされていない
int arr[static 10]; // C99 では有効だが、pycparser ではエラーになることがあるもし、C11 や GCC の拡張構文を使ったコードを解析する必要がある場合は、
事前にコードを変換して pycparser が解析できる形にする必要があります。
pycparser は実行エンジンではない
pycparser は C コードを解析して AST に変換するツール であり、
実際に C のコードを実行するものではありません。
そのため、C のコードを Python で動作させるには、別の方法が必要です。
例えば、pycparser で解析した後に LLVM や C インタープリタを組み合わせる ことで、C のコードを Python で動かすことができます。
✅ pycparser は C のプリプロセッサを処理しない ため、cpp などを使って事前に展開する必要がある
✅ C99 の構文に対応 しているが、それ以外の新しい構文(C11 以降や GCC 拡張)はサポート外
✅ C のコードを実行するツールではない ため、実際の実行には他のツールを組み合わせる必要がある
これらのポイントを理解しておくと、pycparser をよりスムーズに活用できます。
まとめ
本記事では、Python で C コードを解析できるライブラリ pycparser の基本的な使い方を解説しました。pycparser を使うことで、C のコードを 抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree) に変換し、関数や変数の情報を取得したり、静的解析を行ったりすることが可能になります。
この記事の振り返り
✅ pycparser とは?
- Python で動作する C 言語のパーサー
- C コードを 抽象構文木(AST) に変換できる
✅ pycparser の基本的な使い方
pip install pycparserでインストールCParserクラスを使って C コードを解析し、show()メソッドで AST を可視化
✅ pycparser の活用例
- 関数や変数のリストを取得 できる
- コードの静的解析(危険な関数の検出など)ができる
✅ pycparser を使う際の注意点
- C のプリプロセッサを処理しない ため、
cppなどで事前展開が必要 - C99 に準拠 しており、C11 以降や GCC 拡張には対応していない
pycparser を活用してみよう!
pycparser は、C 言語のコード解析を Python で行いたい場合に非常に便利なツールです。
例えば、次のような用途に応用できます。
🔹 C のコードを Python で解析・可視化するツールの作成
🔹 コーディング規約のチェックツールの開発
🔹 C のコードを変換するコンバータの開発
C のコードをプログラムで解析したい場合は、ぜひ pycparser を試してみてください!
最後に
この記事が pycparser の導入や活用の参考になれば幸いです。
もし 「もっと詳しく知りたい!」 と思った方は、公式リポジトリをチェックしてみてください!
Python を使って C のコードを解析し、新たな活用方法を見つけてみましょう!

ここまで読んでいただきありがとうございます!
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